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恐怖の体験談。私がトイレに閉じ込められた90分間
それは、一人暮らしのアパートでの、ある平日の夜のことでした。就寝前にトイレに入り、何気なく内側から鍵をかけたのです。そして、用を足して出ようと、ドアノブに手をかけ、つまみを回そうとした瞬間、異変に気づきました。つまみが、固くて全く動かないのです。まるで、溶接されたかのように、びくともしません。最初は「何かの間違いだろう」と、もう一度力を込めてみましたが、結果は同じ。その瞬間、全身から血の気が引いていくのを感じました。狭くて窓もない、密室の空間。私の手元には、運悪くスマートフォンもありませんでした。一気にパニックが襲ってきましたが、「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせ、まずは大声で助けを求めてみました。しかし、深夜のアパートでは、私の声は虚しく響くだけでした。次に、ドアを力いっぱい叩いてみましたが、これも反応はありません。時間が経つにつれて、焦りは恐怖へと変わっていきました。このまま朝まで、いや、誰かが気づいてくれるまで、ここから出られないのだろうか。様々な最悪のシナリオが頭をよぎり、息が苦しくなってきました。どれくらいの時間が経ったか分からなくなった頃、私はふと、いつも化粧ポーチに入れている、細いヘアピンの存在を思い出しました。藁にもすがる思いで、そのヘアピンをドアとドア枠のわずかな隙間に差し込み、ラッチボルトらしき部分を必死で探りました。何度も失敗し、指先が痛くなるのも構わず、ただひたすらに動かし続けました。そして、何度目かの挑戦で、カチリ、という小さな、しかし天の助けのような手応えがあったのです。ゆっくりとドアノブを回すと、扉はあっけなく開きました。時計を見ると、閉じ込められてから九十分が経過していました。たった九十分。しかし、私にとっては永遠のように長い、恐怖の時間でした。この一件以来、私はトイレにスマートフォンを持ち込むようになり、そして、何よりも、古いアパートの設備のメンテナンスの重要性を、骨身に染みて理解したのでした。