我が家は、築二十年ほどの、ごくありふれたマンションの一室です。数年前、近所で空き巣被害が立て続けに発生し、その手口が「サムターン回し」であったことを知った時、私は他人事ではないと、強い不安を覚えました。かといって、すぐに高価な防犯システムを導入するほどの経済的な余裕はありません。何か、自分たちの手でできることはないだろうか。そう考えた私は、妻と共に、我が家のささやかな防犯プロジェクトを開始しました。まず向かったのは、近所のホームセンターです。防犯コーナーで私たちが見つけたのは、千円ほどで売られていた、両面テープで貼り付けるタイプの「サムターンカバー」でした。帰宅後、早速取り付けてみると、思った以上にしっかりと固定され、つまみを回すためには、カバーの側面にあるボタンを強く押さなければなりません。これは、一本の工具で操作するのは難しそうだ、と直感しました。次に、郵便受けです。我が家のドアの郵便受けには、目隠しの蓋が付いていませんでした。これでは、中が丸見えで、工具も簡単に入ってきてしまう。そこで妻が思いついたのが、厚手の布で、郵便受けの内側に「のれん」のような目隠しを作ることでした。妻がミシンで縫い上げた小さな布を、強力なマジックテープで固定すると、立派な郵便受けガードが完成しました。外からは全く中が見えなくなり、郵便物は問題なく受け取れます。たったこれだけの、合計しても二千円にも満たない対策でしたが、私たちの心にもたらされた安心感は、金額以上の大きなものでした。その後、幸いなことに我が家が被害に遭うことはありませんでした。あの空き巣犯が、一度は我が家を下見に来たかもしれない。そして、サムターンカバーと手作りの郵便受けガードを見て、「この家は面倒だ」と、標的から外してくれたのかもしれない。真実は分かりませんが、あの日の小さな工夫が、今も私たちの平穏な日常を守ってくれている。私は、そう信じています。