開かなくなった金庫を前にした時、多くの人が「いっそのこと、壊してしまおう」という衝動に駆られるかもしれません。インターネットで検索すれば、ドリルやハンマー、バールを使った破壊方法が紹介されていることもあります。しかし、結論から言えば、素人が自力で金庫を破壊しようと試みることは、百害あって一利なしの、極めて危険な行為です。まず、物理的な危険が伴います。金庫は、そもそも破壊行為に耐えるように設計された、鋼鉄の塊です。中途半半端な工具で叩いたり、こじったりしても、びくともしないばかりか、工具が滑って跳ね返り、大怪我をする危険性が非常に高いのです。また、ドリルで穴を開けようとしても、内部にはドリル対策用の硬い鋼板が仕込まれていることが多く、ドリルの刃が折れて破片が飛び散ることも考えられます。次に、金庫の中身を危険に晒すリスクがあります。金庫は耐火性能を高めるために、鋼材の間に特殊な素材を充填しています。ドリルによる摩擦熱で、この素材が化学反応を起こしたり、内部の可燃物である紙幣や書類に引火したりする可能性があるのです。貴重な財産を取り出すための行為が、その財産そのものを焼失させてしまうという、本末転倒な結果を招きかねません。そして、最も厄介なのが、事態をさらに悪化させてしまう可能性です。多くの防盗金庫には、「リロッキング装置」という罠が仕掛けられています。これは、外部からの不正な衝撃や穿孔を感知すると、内部で別のボルトが作動し、扉を完全にロックしてしまうというものです。一度この装置が作動すると、もはやプロの鍵屋でも非破壊での解錠は不可能になり、より大規模で高額な破壊開錠作業が必要になってしまいます。時間とお金を節約するつもりが、結果的に何倍ものコストとリスクを背負い込むことになる。それが、素人による金庫破壊の現実なのです。