五年という長いようで短かった一人暮らしに終止符を打ち、実家に戻ることになった私は、部屋の片付けに追われていました。荷物をダンボールに詰め、掃除も終え、あとは管理会社の担当者との退去立ち会いを待つばかり。そんな安堵感も束の間、私の背筋を一本の冷たい汗が伝わりました。入居時に渡された玄関の鍵二本のうち、一本がどうしても見つからないのです。机の引き出しも、かばんの底も、考えられる場所は全て探しましたが、その小さな金属片は姿を現しませんでした。いつ、どこでなくしたのか、全く記憶にありません。慌ててスマートフォンで「賃貸 鍵 紛失 退去」と検索すると、表示されるのは「高額請求」「敷金ゼロ」といった恐ろしい言葉ばかり。私の心は一気に不安で満たされ、いっそのこと黙って一本だけ返してしまおうか、という悪魔の囁きが頭をよぎりました。しかし、それで万が一後からトラブルになったらもっと面倒なことになるに違いない。私は意を決して、管理会社の担当者に電話をかけました。震える声で「大変申し訳ないのですが、鍵を一本紛失してしまいまして」と切り出すと、担当者の方は意外にも落ち着いた声で「左様ですか。承知いたしました。鍵を紛失された場合は、防犯上の理由でシリンダー交換となりまして、その費用を退去時にご負担いただくことになります。詳細は立ち会い時にご説明しますね」と、非常に事務的に、しかし丁寧に対応してくれました。その冷静な対応に、私の張り詰めていた気持ちは少しだけ和らぎました。そして迎えた立ち会い当日。部屋の傷のチェックなどが終わった後、私は残っていた鍵一本を差し出し、改めて紛失の件を謝罪しました。後日送られてきた精算書には、鍵交換費用として一万九千円が記載されており、その金額が敷金から差し引かれていました。金額は決して安くはありませんでしたが、最後まで隠し事をせずに正直に話したことで、後味の悪い思いをすることなく、気持ちよく思い出の部屋を後にできたことが、何よりの収穫だったと感じています。
退去時に鍵紛失を正直に話した私の体験談